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「内々定」の取消しと企業の責任(弁護士:谷尻 和宣)

2021年11月19日

コラム

執筆弁護士について

弁護士 谷尻 和宣

谷尻 和宣(たにじり かずのぶ)

弁護士法人一新総合法律事務所 
理事/松本事務所長/弁護士

主な取扱分野は、交通事故、相続。そのほか、離婚、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
保険代理店向けに、顧客対応力アップを目的として「弁護士費用保険の説明や活用方法」解説セミナーや、「ハラスメント防止研修」の外部講師を務めた実績があります。

はじめに

先日のニュース報道によると、ある企業の新卒採用で、内々定者のうちの約半数が内々定を取り消される事態となり、内々定を取り消された学生がツイッターで声を上げるなどちょっとした騒動になったそうです。

最終的には企業側が誠意をもって対応する旨の声明を出して混乱は収まったそうですが、中には就職活動を一からやり直すことになった人もいたとのこと。

10月以降の就職活動再開となると、採用企業の数も限られてくることから、相当大変なものと思われます。

内々定取り消しとなった学生さんの心痛やいかばかりかと察します。

ところで、このような内々定の取り消しの場合、企業側に損害倍請求をすることができるのでしょうか。「内々定」の法的性質が問題となります。

「内定」とは

まず、「内定」について見てみましょう。

内定の法的性質について、判例・通説では、「始期付解約権留保付労働契約」の成立と解されています。

長々しい法律用語で恐縮ですが、少しずつ分解しながら説明します。

「始期付き」とは、契約の効力が開始する時期が定まっているという意味です。

分かりやすい例で言うと、我が国の新卒採用では、卒業年度の10月1日に内定が出て、翌年度の4月1日から実際に職場で働き始めて給与を受け取るようになることが多いと思われますが、この場合だと翌年度の4月1日が労働契約の始期となります。

4月1日以降労働者は労務を提供する義務を負うし、企業側も給与の支払い義務を負うようになるということです。

また、「解約留保付き」とは、一定の事由が生じた場合は、契約が解除されるという条件が付いているという意味です。

例えば、年度内に卒業できなかった場合には、内定が取り消されるといった例が挙げられるでしょう。

注意しないといけないのは、これらの特殊性があるものの、内定は労働契約そのものの成立であるということです。

既に労働契約が成立していることから、当事者(企業と内定者)は契約に拘束されることになるのです。

したがって、企業は自社の都合だけで内定を取り消すことはできません。

また、先述の解約留保の内容に関しても、あらかじめ企業側が取り決めた内定取り消し事由なら何でも有効というわけではありません。

判例によると、内定当時に知ることができなかったり、知ることを期待できなかったりした事実があとから判明し、それを理由に内定を取り消すことに客観的な合理性があり、社会通念上も相当として是認されるようなものでなければならないとされています。

要するに、内定取り消しは、まさに現職の労働者を解雇するのと同じことであり、合理性や社会的相当性を欠く内定取り消しは違法とされるのです。

そして、内定取り消しが違法とされた場合には、企業は内定者に対し損害賠償責任を負うことになります。

なお、内定は労働契約の成立であることから、内定後は内定者側をも拘束します。

したがって、内定者が内定を辞退する場合には、労働者が自分の意思で退職する場合と同様、内定辞退を伝えてから2週間を経過してからその効果が生じることになります。

「内々定」とは?

では、「内々定」とはどのようなものでしょうか。

内々定については特に明確な定義づけはなく、一般には、企業側が求職者に対し内定を出す予定であると通知することといった理解をされていると思われます。

すなわち、何か法律的な効果が発生するものではなく、専ら事実的な行為なのです。

したがって、内々定の段階では労働契約はまだ成立しておらず、内定ほど強力に当事者を拘束する法的効力はないのです。

もっとも、だからと言って、企業は内々定取り消しによりいかなる場合でも損害賠償義務を負わないのかというと、そうではありません。

内定までの時期によっては、求職者として内定が出るのが確実だという高度の期待を抱く場合があり、そのような状況での内々定取り消しは損害賠償責任が発生する場合があります。

例えば、内定式の直前になっての内々定取り消しがこれに当たるでしょう。

このような場合は、求職者に与える不利益が大きく、信義則上問題があると言えます。

また、内々定に至る経過において、企業側の態度が不誠実と評価される場合にも、内々定の取り消しが違法とされる可能性が高いでしょう。

例えば、前職を退職して内々定を得た求職者の場合で、企業側がその求職者に対し前職の退職を積極的に働きかけていたというような事情がある場合には、求職者に与える不利益があまりに大きいし、企業の行動にも矛盾があって不誠実だと言わざるを得ません。

したがって、そのような内々定取り消しは違法とされるでしょう。

冒頭のケースでは

冒頭に紹介した報道のケースでは、個々の求職者との内々定の経過や内々定を取り消す理由などにもよりますが、約半数もの求職者の内々定を取り消すという事態が、例えば採用計画時に予測できなかったほどの業績悪化が内々定後に生じたという事情によるものであれば、やむを得ないものと評価される余地はあります。

ただ、実際の内定者の2倍近くの者に内々定を出していることは、採用計画の綿密性について疑問がないわけではありません。

もし企業側が甘い見通しのもとで安易に過大な内々定者を出していたというのであれば、ほとんどの企業が採用活動を終えた時期の内々定取り消しという事情も相まって、企業側の責任は免れないように思われます。

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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