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2022年2月24日
コラム
令和4年(2022年)2月14日、法制審議会が子どもの法律上の父親を決める「嫡出推定」の規定について見直すよう古川禎久法務大臣に答申しました。
嫡出推定に係る現行民法の規定は今から100年以上昔の1898(明治31)年に施行されたものですが、今の時代にはそぐわなくなったのでしょうか。
子どもの親が誰であるかを判断するにおいて、生物学的な血縁上の視点は重要です。
しかし、血縁があるかないかの判断は難しい場合もあります。
現行民法が施行された当時はDNA鑑定など科学的に血縁関係を証明する手段もなく、出生後に親子関係を科学的に明らかとすることは困難でした。
特に、母親については妊娠と出産をもって血縁関係を認めることができても、父親も同じようにとはいきません。
子どもの父親を血縁関係だけで定めようとすると、かなり厄介な状況となってしまうのです。
そこで、民法は、親子関係のうち特に父子関係について、一定の要件のもと法律上推定するという方法をとりました。
これが嫡出の推定を定めた民法772条の規定です。
法律上の親子関係が定まることによって、子どもは親の戸籍に入ることになります。
また、親が亡くなった時には相続人になることができ、他にも親に対して養育費を請求する権利を得ることができます。
子どもにとって法律上の親子関係が定まることに不利益はなさそうですが、嫡出推定にはどのような問題があるのでしょうか。
民法772条は、夫婦が離婚した日から300日以内に生まれた子どもについて、離婚した元夫との間の子どもと推定すると定めています。
離婚後300日以内に生まれた子どもは血縁関係の有無にかかわらず、法律上元夫の子どもとして扱われることになってしまうのです。
しかし、母親としては離婚に至る前に相当期間夫と別居している場合もあります。
離婚届の提出が遅れただけで夫婦としての関係が長い間ない場合もあります。
このような場合に、離婚後300日以内に子どもが生まれたとして、本当に元夫の子どもといえるでしょうか。
母親としては間違いなく元夫の子ではないと確信が持てる場合もあるでしょうし、また実際に元夫と血縁関係にない場合が多いといえます。
しかし、民法772条の300日以内の嫡出推定規定によって、子どもの父親は元夫と推定され、そのため子どもの出生届についても元夫を父親として届出をすることとなります。
役所では母親がいくら元夫の子どもではないと説明したとしても、血縁上の父親が誰なのか審査することはできないため、元夫以外の父親が記載された出生届は受け取らないのです。
結果、母親が元夫を父親とする出生届の提出を拒み、子どもが無戸籍になってしまうといのが問題なのです。
嫡出推定は、法律上の父子関係を早期に確定すること、家庭のプライバシーを守りながら家庭の平和を尊重し、子の福祉を図ろうとする趣旨で定められたものです。
しかし、日本の離婚率は年々上がり、今は3組に1組は離婚するような状況で、民法制定時とは家族の姿も大きく変わりました。
今後300日問題の事案も増えることが予想されます。
また、科学技術は大幅に進歩し、比較的容易にDNA鑑定によって生物学的な親子関係を正確に確定することができるようにもなりました。
このような時代の流れの中で、離婚後300日以内に生まれた子どもを元夫の子どもと推定する民法の規定は過去の遺物になっており、変更や例外を設けるべきなのだと思います。
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