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気をつけたい労災隠し(弁護士 渡辺 伸樹)

2025年6月4日

コラム

気をつけたい労災隠し

【相談事例】

業務中に転んでケガをし、数日休業した従業員から「自分のミスなので労災扱いにはしないでよい」と言われました。どのように対応すればよいでしょうか。

1.労災かくしは犯罪

事業者は、労働者が労働災害により死亡または休業したときには、遅滞なく、労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出しなければなりません。(※1)

会社がこの死傷病報告を提出せず、または虚偽の報告をした場合は、いわゆる「労災かくし」として、50万円以下の罰金に処されることがあります。(※2)

また、労災保険給付の手続にあたっては、会社側に、請求等の手続をサポートする義務と必要な証明をする義務が課せられています。(※3)

ここまでは、会社の経営者であれば、理解されている方が多いと思います。

※1 労働安全衛生法100条、労働安全衛生規則97条
※2 労働安全衛生法120条
※3 労働者災害補償保険法施行規則23条

2.従業員から労災扱いにしないでよいと言われた場合

もっとも、冒頭の相談事例のように、従業員の側にミスがあった場合や、軽微な事故の場合、従業員の側から会社に配慮して、労災扱いにしないでよいと言ってくることがあります。

会社としては従業員の厚意に甘えたくなるところですが、死傷病報告の義務は、法令上、事業主に課されている義務であり、従業員が労災扱いにしないでよいと言ったことを理由に免除されるものではありません。

したがって、このような場合も会社は労働者死傷病報告を提出する必要があります。


労災かくしというと、従業員から労災保険での対応を依頼されているにも関わらず、会社が手続に協力しないような場面を想像する方が多いと思いますが、冒頭の相談事例のようなケースでも、立派な労災かくしに該当してしまうことに注意が必要です。

3.労災事故に健康保険は利用できない労働災害に該当し、労災保険の利用が可

労働災害に該当し、労災保険の利用が可能な場合、健康保険は利用できません。

すなわち、労災保険を利用せず、自費で治療を受ける場合、自由診療の治療費を10割負担する必要が生じ、数回の通院でも治療費が思いのほか高額になります。

このことを知らず、冒頭の相談事例のような申し出をしてくる従業員も少なくありませんので、このようなケースでは、労働災害では健康保険が利用できないことを説明したうえで、会社側で労災保険給付の手続をサポートし、安心して通院するよう従業員に促してあげると良いでしょう。

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2025年4月5日号(vol.302)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

執筆弁護士について

弁護士 渡辺 伸樹

渡辺 伸樹(わたなべ のぶき)

弁護士法人一新総合法律事務所 
理事/長野事務所長/弁護士

出身地:新潟県上越市 
出身大学:中央大学法科大学院修了
長野県公益認定等審議会委員(2022年~)、長野県弁護士会業務改革委員会副委員長(2023年~)、長野県弁護士会常議員(2025年~)を務める。

主な取扱分野は、交通事故。そのほか、金銭問題、離婚、相続、その他幅広い分野に精通しています。
保険代理店向けに、顧客対応力アップを目的として「弁護士費用保険の説明や活用方法」について解説するセミナー講師を多数務めた実績があります。

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