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2022年4月11日
コラム
米俳優のウィル・スミス氏が、アカデミー賞授賞式でプレゼンターのクリス・ロック氏を平手打ちした事件が話題になりました。
直前にロック氏が、スミス氏の妻の容姿をからかう発言をしていたことから、平手打ち行為の妥当性について日本でも賛否両論が巻き起こりました。
法的な観点で見た場合、許される平手打ちと許されない平手打ちの境界線はどこにあるのでしょうか。
今回のコラムでは、刑法上の暴行罪が成立するかどうかという観点で、平手打ちの違法性についてざっくり解説します(なお、本コラムは、日本法を前提としていますので、その点ご容赦ください)。
はじめに、思いつく平手打ちのシーンをいくつか挙げてみます。
①通行人に歩きたばこを注意されたので、通行人の頬を平手打ちした
②プロレスラーが対戦相手に、平手打ち(張り手)攻撃を見舞った
③深夜に暴漢に襲われそうになったので、平手打ちを一発かまして逃げた
④彼氏の浮気が発覚したので、彼氏の頬を平手打ちした
⑤授業中に居眠りをした生徒の頬を、教師が平手打ちした
①の平手打ち行為で暴行罪が成立するのは言うまでもありません。
②の平手打ちは、プロレスという確立したエンターテインメントの中でのルールの範囲内の行為であるため、正当業務行為として暴行罪は成立しません。
③の平手打ちも、生命身体に対する差し迫った危険を避けるためにやむをえずにした行為と評価できるものであれば、正当防衛が成立し、暴行罪は成立しません。
それでは、④や⑤はどうでしょうか。
④の平手打ちは、ドラマなどでよく目にするシーンで、一般的に許容範囲な気がするかもしれませんが、法的な観点で見ると実はグレーで、暴行罪と評価されてもおかしくない行為です。
実際に平手打ち一発で立件されるケースは多くありませんが、これは単に公の場で行われることが少なく、平手打ちをされた側も甘んじてこれを受け入れ、被害申告されるケースが多くないからといえるでしょう。
⑤も④と同様です。
⑤のような平手打ちで暴行罪が成立しうることは、体罰の禁止が浸透した現代においては、④のケースよりも理解しやすいかもしれません。
このように、法的な観点でみると、日常生活の場面で平手打ちが許されるケースはかなり限定されます。
いいかえれば、平手打ちにそれなりの理由があったとしても、平手打ちをされた側に落ち度があったとしても、情状酌量の事実としては考慮されますが、③のような緊急事態を除き、暴力行為としての違法性を完全に打ち消す事情にまではなりづらいということです。
今回のウィル・スミス氏の平手打ちに関しては、妻を守るための勇気ある行動として、肯定的な意見がそれなりにあるようです。
もちろん、平手打ちのきっかけとなったクリス・ロック氏の発言が問題視されるべきことはいうまでもありませんし、平手打ちに至った理由も十分に理解できるところです。
しかしながら、少なくとも法的な観点からは、暴力行為を誘発した発言の違法性と、暴力行為そのものの違法性の問題は、区別して考えられてしまうということは、覚えておいて損はないでしょう。