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2023年10月24日
コラム
AI技術がここ数年で飛躍的に発展しています。
子どもの頃、アーノルド・シュワルツェネッガーが出演するターミネーターという映画をみて、AI(人工知能)というものを知りました。
作中ではAIがインターネットから膨大な情報を集め処理していき、その中で自我に目覚め、AI自身を脅かす人類を排除しようとするものです。
作中のターミネーターは2029年から1984年にタイムスリップしたとの設定で、今のAI技術の発展状況からすると近い将来似たようなこともあるのではと考えてしまいます。
さて、ターミネーターの世界でもAIが自我に目覚める前に、そうならないよう何らかの規制をかけておけばよかったかもしれません。
どのような規制があれば防げたのか具体例を何も出せないのが私のつまらないとこですが、技術の利用者側には難しいことなのかと思います。
ただ、このことは一般的なこととも思え、技術の発展とそれを社会に広めていく課程における規制はどうしても、規制が一歩(またはそれ以上)遅れる形となります。
特にコンピューターのハードウェア、ソフトウェアなどの高度な知識と専門性が必要な分野は、多くの人がその仕組みを理解しないまま利用しているところがあり、それで規制といっても全く実態に合わないものができてしまうおそれがあります。
2000年初頭、ファイル共有ソフト「Winny」に関係する著作権法違反事件が世間を騒がせました。
「Winny」は第三者がインターネットの共有ファイル上にある音楽やマンガなど様々なデジタルデータをダウンロードすることができ、対価を支払うことなく映画、音楽、ゲームなどの著作物を楽しむことができました。
事件の詳細や裁判の内容などをここで語ることはしませんが、結局開発者とその一部の間で便利に利用されていたソフトが、不特定多数の一般に公開され、その公開された人達の中で著作権侵害に利用される状況を招いたものです。
「Winny」の事件後、デジタル化に伴う著作権の課題への対応の在り方が国会などでも議論されるようになりました。
また、世間でも「音楽の定額配信サービス」や「電子書籍サービス」などが普及し、デジタルコンテンツに対しても料金を支払うという意識が根付くこととなりました。
ただ、その後もインターネット上のデジタルコンテンツに関する問題は繰り返し起こり、Torrentソフトの利用や、漫画村といった違法ダウンロードの問題が発生しています。
いま技術者において開発されたインターネット技術で世間一般へと普及しはじめ、話題となっているのがAI技術です。
特に最近ではAIによる画像やイラストの生成という技術によってAI女優・タレントというものが登場し、これを企業がCMに活用するというところまで至っています。
具体的には、株式会社伊藤園が「お~いお茶 カテキン緑茶」のテレビCMにAIタレントを起用し、そのCMがお茶の間に流れています。
私も何も知らずにそのCMを見て、これがAIによって作られた女優だと気づけませんでした。
その後ニュースなどでこの件が取りあげられ、はじめて知ることになりました。
個人が利益を出すことなく私的に楽しむ場合にはAI画像やAIイラストも問題になりません。
しかし、不特定多数の人に向けて商業的に行われる場合はやはり問題が起こりえます。
例えば、使われたAI画像やAIイラストに何らかの権利を持つ人がいれば、その人としては自分の権利が侵害されたと不満を言いたくなるでしょう。
自分にも得られた利益の分け前が欲しいとか、逆にそのAI画像やAIイラストを使わないで欲しいと思うかもしれません。
他方、利用者側からすると、AIによる画像やイラストの使用はとても便利であって、問題がなければどんどん活用していきたいと考えると思います。
そして、AIによる画像やイラストの生成は膨大なインターネット上の画像データをもってモデルが設定され、更にそのモデルに独自の変更を加えて生成することから、逆に生成した者の権利を認めそれ以外はないというかもしれません。
では、著作権等の保護を扱う文化庁はどのように考えているのか、文化庁はまだまだ検討が必要としながらも、AIがインターネット上にある大量の画像データをもって学習する段階では原則として画像データ権利者の承諾なく行うことができ、例外として画像データ権利者の利益を不当に害する場合には許諾が必要としています。
そして、AIが画像やイラストを生成する段階では、既存の画像やイラストと似ているかどうか、また既存の画像やイラストに依拠して生成されているかどうかで著作権として保護されるかを判断するとしているのです。
では、これを伊藤園のAIタレントにあてはめるとどうなるのでしょうか。
SNSなどではこのAIタレントが二階堂ふみさん、櫻井ユキさん、瀬戸朝香さん、柴咲コウさんに似ているとされているようです。
確かにそれぞれの女優のいくつかの写真を見比べると雰囲気が似ているものはあるのですが、何か特徴的な部分で共通することはなさそうです。
続いて、特定の女優さんに依拠して生成されていそうかという評価は更に難しいところで、もう実際にAIタレントを生成した作成者にも話を聞かないと判断はできそうにないです。
文化庁も「最終的には裁判所により、個別の作品ごとに判断されるもの」として、検討課題ではあるものの事例の蓄積が求められている状態です。
さて、冒頭で書いたとおり技術の発展とその規制はどうしても規制が一歩遅れる形となります。
そして、私達は規制というものに消極的になる傾向があり、また都合の悪い情報は無視したり、過小評価する傾向もあります。
そうすると、結論的には無視できない大きな問題とならないと突っ込んだ検討に入らないかもしれません。
岸田総理は日本がAI開発について国際的な行動規範を作成し示していくことを発信しましたが、技術の発展スピードが著しいなか、その専門性を持ちつつ法的な知識も兼ね備えた人がどこまで対応できるのか。
AIイラストやAI画像の範囲であればまだいいですが、ターミネーターの審判の日(全世界規模の核戦争)のように取り返しのつかない事態になってからあのときもっと考えて規制をしておけば良かったと思うのかもしれません。
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